地方の小売業がECサイトを立ち上げた。売上の30%をオンラインにした実装
「うちはネット販売は無理だ」——地方の小売店主が言うこの言葉を、私は何度聞いてきたか。しかし、その判断は間違いだ。地方の小売業こそ、ECで稼げる可能性が高い。なぜなら、商圏が狭い分、オンラインによって全国に顧客を広げる余地が大きいからだ。2,000社を超える支援の中で、私は地方の個人小売店がECで売上を30%以上オンラインにシフトした事例を複数見てきた。問題は「できるかどうか」ではない。「何から始めるか」だ。

地方小売業が直面している構造的な危機

人口減少は止まらない。商圏は縮小し続ける。そして、Amazonや楽天は地方の小売店からも確実に顧客を奪っている。この事実から目を背けても、状況は変わらない。
地方小売業が生き残るためには、「商圏の限界を超える」ことが必要だ。その手段が、ECだ。しかし、多くの経営者がECに踏み出せない理由は3つある。一つ目は「技術的な壁」。ECサイトを作れる人材がいないと思っている。二つ目は「コストの壁」。高額なシステム投資が必要だと思っている。三つ目は「物量の壁」。在庫管理・梱包・発送の手間が増えると思っている。
しかし、現実はこうだ。BASEは無料で始められ、HTMLの知識がなくてもECサイトを構築できる。Shopifyは月額3,300円(約33ドル)から本格的なECを運営できる。物流代行(フルフィルメントサービス)を使えば、梱包・発送の手間も外注できる。「できない理由」のほとんどは、最新の情報がないことによる思い込みだ。
BASEとShopify、どちらを選ぶべきか

EC構築ツールの選択は、事業規模と目標によって変わる。しかし、地方小売業の「EC初挑戦」においては、シンプルな判断基準がある。
月商50万円以下を目標にする段階では、BASEで十分だ。初期費用ゼロ、販売手数料3〜5%、操作がシンプルで、スマホで商品登録できる。まず「売れる体験」を積むための入口として最適だ。一方、本格的に売上をオンラインにシフトする段階——月商100万円以上を目指す——では、Shopifyが強い。在庫管理・CRM・広告連携・分析ツールが充実しており、拡張性が圧倒的に高い。
重要なのは「段階的に投資すること」だ。最初からShopifyで完璧なECサイトを作ろうとする必要はない。BASEで試して、手応えが出たらShopifyに移行する。この2ステップが、失敗しないEC立ち上げの王道だ。
BASE vs Shopify 使い分け
- BASE(無料〜):EC初挑戦・月商50万円以下・技術知識ゼロからでもOK・手数料制
- Shopify(月3,300円〜):本格的な拡張・在庫管理・CRM・広告連携・月商100万円以上を目指す段階
失敗しないために
- 完璧主義は最大の失敗要因:まず10〜20商品を登録して1件売ることを目標にする
- SNS連動は必須:ECサイトを作っただけでは売れない。InstagramまたはXで集客の仕組みを同時に設計する
SNSと連動させて「売れる仕組み」をつくる

ECサイトを作っただけでは、誰も来ない。集客の仕組みがなければ、EC投資は無駄になる。しかし、地方の個人小売店が大手ECのように広告費をかける必要はない。SNSを活用した集客は、費用をかけずに始められる。
最も効果的なのは、InstagramとECサイトの連動だ。商品の世界観を伝える写真・動画をInstagramに投稿し、プロフィールリンクでECサイトへ誘導する。地方の小売業は、地域性・手作り感・ストーリーといった「大手ECにはない強み」を持っている。これをInstagramで表現することが、差別化につながる。
具体的には、「商品ができるまでの過程」「商品に込めた思い」「地域の素材・文化との繋がり」——こうした「物語」を定期的に投稿する。購入者の感想(UGC)を積極的にシェアする。これだけで、認知と信頼が積み上がり、継続的な集客が生まれる。重要なのは、毎日投稿することではない。週2〜3回、一貫したテーマで続けることだ。
【比較】店舗のみ運営 vs EC+SNS連動
| 比較項目 | 店舗のみ | EC+SNS連動 |
|---|---|---|
| 商圏 | 車で30分圏内 | 全国(海外も可能) |
| 営業時間 | 開店時間のみ | 24時間365日 |
| 集客コスト | チラシ・看板(継続費用) | SNS運用(低コスト) |
| 人口減少の影響 | 直撃 | 軽減できる |
鳥取県・雑貨店8名の事例:BASE導入で月商の32%がオンラインに

鳥取県の雑貨店(従業員8名・実店舗1店)では、人口減少による来客数の低下が続いていた。地元の作家作品を扱う特徴ある品揃えがあったが、商圏外には知られていなかった。
私たちが提案したのは、BASEでのEC立ち上げと、Instagram運用の同時開始だ。まず主力商品30点をEC登録し、各商品の「作家のストーリー」を商品説明に加えた。Instagramは週3回、制作過程の動画と作家インタビューを投稿した。
開始から2ヶ月後に最初の県外からの注文が入り、6ヶ月後には月商の18%がオンライン経由になった。1年後には32%がオンライン売上だ。投資額は初期設定費用・撮影費用込みで約30万円。その後のランニングコストはBASEの手数料と月3万円のSNS運用支援費のみだ。
「東京の人から注文が来た時、スタッフ全員で驚いた。うちの商品が全国で売れるとは思っていなかった。ECを始めてから、仕事へのモチベーションが全然違う。」
— 雑貨小売業・8名・鳥取県
まとめ:地方小売業の「生存戦略」はECとSNSの組み合わせだ
商圏が縮む地方で、店舗だけに依存し続けることはリスクだ。しかし、EC立ち上げに必要な技術も費用も、今は驚くほど小さくなっている。BASEなら今日から始められる。SNSなら費用ゼロで集客できる。重要なのは「完璧なEC」を目指すことではなく、「売れる体験を積む」ことだ。最初の1件が、次の100件への第一歩になる。
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。
2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。
その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。
「AI/DX」「起業」「新規事業」「M&A」領域で国、自治体、金融機関、上場企業からの信頼も厚く、全国700回を超える講演、著書7冊。
地域が主役の日本新時代をDX×チャレンジで創るべく、起業家、経営者の成長支援と、金融機関、新聞社、自治体向けのDX支援を展開。第一生命、広島銀行、島根銀行、熊日新聞、愛媛新聞、新日本海新聞、北日本新聞、熊本市、人吉市、美里町、山形県寒河江市、奈良県田原本町、愛媛県松前町、西条市などをご支援中。
肩書など
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。
元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。
東京都INCU Tokyoメンター
熊本市スタートアップメンター
