DX推進担当者の仕事とは。中小企業で「DX担当」を任された人がやるべきこと
「先月から社内のDX推進担当になったんですが、何をすればいいかわからなくて…」

この言葉を、1万社を超える経営者・担当者支援の中で何度聞いてきたかわからない。突然「DX担当」を命じられた人の多くが、こんな状況に置かれている。
中小企業のDX推進担当者の仕事は、ツール選定ではなく現状の課題定義と優先順位づけにある。経営者からは「AI活用してコスト削減してほしい」と言われる。一方、現場からは「今の仕事も忙しいのに余計なことをしないでくれ」と牽制される。どのツールを選べばいいかもわからない。予算もない。専門知識もない。
この記事では、中小企業でDX推進担当者に任命された人が、何から始めて何をすべきかを整理する。「DXとは何か」の理論ではなく、月曜日から動けるレベルの実践的な話をするわけです。
中小企業のDX推進担当者の仕事の本質
まず、最初に断言する。
DX推進担当者の仕事は、ツールを選ぶことではない。
多くの人がここを間違えて動き出す。「まずSlackを導入しよう」「NotionかBacklogか迷っている」と、ツール選定から始めてしまうわけです。
DX推進担当者の本質的な仕事は3つだ。
1. 現状を可視化する
会社の業務がどのように流れているかを、全員が共有できる状態で把握する。つまり、「誰が」「何を」「どれくらいの時間をかけて」やっているかを言語化するわけです。
2. 課題を定義する
可視化した業務の中から、「ここが変われば会社全体にインパクトがある」というボトルネックを特定する。現場の不満の声を集めるだけでなく、経営的な優先度と照らし合わせて定義するわけです。
3. 優先順位をつけて動かす
課題が出てきたら、全部一気に解決しようとしない。最小の労力で最大のインパクトが出る1点に絞り、まず小さく実験する。
この3つが機能してはじめて、ツール選定が意味を持つわけです。
現状把握:最初の3ヶ月でやること

DX推進担当者になったら、最初の3ヶ月は「現状を知ること」に集中する。
社内インタビューを各部門で実施する
各部門の担当者に30分ずつ話を聞く。聞くことは3つだけだ。
- 毎月定期的に発生する繰り返し作業は何か
- 時間がかかって困っている業務はどこか
- 「ここが変わったら楽になる」と感じていることは何か
この段階では、解決策を提案しなくていい。つまり、ただ聞いて記録するだけでいいわけです。
業務の「時間棚卸し」を行う
主要な業務について、1ヶ月あたりの所要時間を概算で把握する。具体的には、月次集計・報告書作成・データ入力・在庫確認などの繰り返し業務を時間に換算することで、どこに工数が集中しているかが見えてくるわけです。
経営者の期待値を確認する
「DX推進担当者として何を期待しているか」を経営者に直接聞く。「コスト削減」なのか「売上増加」なのか「人手不足への対応」なのか、優先度の高い経営課題を把握しておくことが、後の方向性の判断基準になるわけです。また、経営者と現場の認識のズレをここで把握しておくことが重要だ。
課題定義:「現場の不満」と「経営の優先度」をつなぐ
現状把握をすると、課題は山積みになる。「全部変えたい」という気持ちになるが、ここで優先順位をつけることが最も重要な仕事だ。
課題を評価する軸は2つだ。
軸1:経営インパクトの大きさ
この課題が解決されたとき、売上・コスト・人時生産性にどれだけインパクトがあるか。
軸2:実現しやすさ
この課題を解決するのに、どれだけの時間・コスト・社内調整が必要か。
2つの軸でマトリクスを作り、「インパクトが大きく・実現しやすい」課題から手をつけるわけです。
優先度が高い課題の特徴
- 繰り返し発生する手作業:毎月定期的に発生する入力・集計・転記
- 情報の属人化:「あの人に聞かないとわからない」業務
- 承認・確認の待ち時間:担当者不在で業務が止まるポイント
最初に手をつけてはいけない課題
- 基幹システムの入れ替え:全社に影響が大きく、初期投資・移行リスクが高い
- 現場が強く反対している変更:賛同なしの強制導入は必ず失敗する
- 経営者の関心が薄い課題:予算や協力が得られにくい
経営者と現場の板挟みを乗り越える方法
DX推進担当者の最大の苦労は、経営者と現場の板挟みになることだ。これは多くの担当者が直面する共通の問題だ。
乗り越える方法は、「どちらの味方でもなく、事実を整理して提示する人」に徹することだ。
経営者に対して:小さな成功事例を早く作って報告する
経営者は「DXの方向性」より「結果」に関心がある。そのため、小さくても「この業務が月5時間削減できた」という具体的な成果を3ヶ月以内に作って報告することで、継続的な協力と予算を得やすくなるわけです。
現場に対して:負担を増やさないことを先に伝える
現場が最も恐れているのは「余計な仕事が増える」ことだ。「この変更で、あなたの○○という作業がなくなります」という形で、変更のメリットを個人レベルで伝えることが、現場の協力を得る条件になるわけです。
「DX担当に任命されて最初の6ヶ月は、毎月の請求書処理を手作業からクラウド化することだけに集中した。月12時間の作業が3時間になったことを経営者に報告したら、次の予算を取りやすくなった。小さく始めたのが正解だったと思う」
— 製造業・従業員30名・DX推進担当者・入社5年目
ツール選定よりも前に決めること
最後にツール選定の話をする。ツールを選ぶのは課題が定義された後でいい。
ツールを選ぶときに必ず確認すること。
1. 試用期間(無料トライアル)で使えるか
いきなり全社導入せず、まず自分一人か小さなチームで試す。使えなければやめればいい。
2. 社内の誰でも使えるリテラシーレベルか
自分が使えても、現場のスタッフが使えなければ意味がない。最も苦手そうなスタッフが使えるかどうかを基準にするわけです。
3. 既存のツールと連携できるか
新しいツールが既存のシステムと連携できない場合、二重入力・手作業転記が生まれる。連携可否を先に確認するわけです。
まとめ:DX推進担当者は「翻訳者」である

DX推進担当者の仕事の本質は、経営の言葉と現場の言葉を翻訳して、具体的な変化を作り出すことだ。
「AIで業務効率化」という経営者の言葉を、「月次在庫確認の入力作業を自動化する」という現場レベルの行動に翻訳する。「そんなシステム入れても使えない」という現場の声を、「導入するには操作研修と移行期間の設計が必要」という経営者へのフィードバックに翻訳する。
この翻訳ができる人間が、中小企業のDXを動かすわけです。
何から始めるかは決まっている。まず現状を知ること。インタビューと時間棚卸しから始めるわけです。
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。
2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。
その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。
「AI/DX」「起業」「新規事業」「M&A」領域で国、自治体、金融機関、上場企業からの信頼も厚く、全国700回を超える講演、著書7冊。
地域が主役の日本新時代をDX×チャレンジで創るべく、起業家、経営者の成長支援と、金融機関、新聞社、自治体向けのDX支援を展開。第一生命、広島銀行、島根銀行、熊日新聞、愛媛新聞、新日本海新聞、北日本新聞、熊本市、人吉市、美里町、山形県寒河江市、奈良県田原本町、愛媛県松前町、西条市などをご支援中。
肩書など
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。
元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。
東京都INCU Tokyoメンター
熊本市スタートアップメンター
