京都の老舗中小企業がDXで100年事業を守り抜いた方法

「変えてはいけないものがある」——京都の老舗経営者と話すと、こういう言葉に出会う。職人の技術・顧客との関係・ブランドの信頼——これらを守ることが経営の核心だ。
しかし、「変えてはいけないもの」と「変えるべきもの」を混同してしまうと、老舗は時代に取り残される。
技術や味や接客は変えない。しかし、受発注の方法・在庫管理・顧客データの蓄積・後継者への技術の記録化——これらはDXで変えるべきものだ。
京都の老舗中小企業がDXをどう捉え、何から始めたか。事例を通じて整理する。
京都の老舗企業がDXを必要とする3つの理由
1. 後継者問題と技術の継承
「自分の頭の中にしかない知識」が最大のリスクだ。職人の感覚・経営判断のノウハウ・顧客との取引条件——これらがデジタルで記録されていなければ、引き継ぎが難しい。
DXは技術継承のツールになる。作業手順の動画記録・ノウハウのデータベース化・顧客情報のシステム管理——これらが後継者への引き継ぎを可能にする。
2. 観光客・インバウンド需要への対応
京都では、訪日外国人観光客をターゲットにした需要が大きい。Googleマップ・トリップアドバイザー・Booking.comなどのプラットフォームへの対応、多言語での予約受付、決済の多様化(クレジットカード・QR決済)——これらはDXなしに対応できない。
3. 大手取引先からのデジタル化要求
老舗製造業・製品卸では、大手百貨店・小売からのEDI対応・品質記録の電子化要求が増えている。「今まで通り」では取引が続けられなくなるケースが出てきている。
老舗企業のDXで「変えるもの・変えないもの」の整理
- 変えるべきもの(DXで効率化):受発注・在庫管理・顧客データ管理・会計・採用プロセス
- 変えてはいけないもの:職人の技術・ブランドの世界観・顧客との信頼関係・製品・サービスの品質
注意点
- DXが「老舗らしさ」を壊すことへの懸念:スタッフや職人に「便利になるための道具」として位置付けること。ブランドや技術には触れないことを明確にする
- 顧客との関係性に影響しない範囲から始める:バックオフィス業務から着手し、顧客接点には慎重に展開する
実録:京都の伝統工芸品メーカー(創業150年・従業員20名)の事例
【実録:京都の伝統工芸品製造・小売(創業150年、従業員20名)の事例】
受発注は電話・Fax。在庫は手書き台帳。顧客情報はExcelと名刺。4代目に代替わりしたタイミングで、バックオフィスのデジタル化を決断。受発注管理・在庫管理・顧客CRMを順番に導入。同時に、職人の製作工程を動画で記録し、社内ナレッジとして保存した。「職人の技術は変えない。その技術を守るための仕組みをデジタル化した」という経営方針が、スタッフと職人の理解を得た。
京都の老舗向けDXの進め方
まずバックオフィスから:職人・スタッフの目に触れないバックオフィス業務(会計・在庫・受発注)から始める。「DXが現場を変えない」という安心感が重要だ。
顧客接点は慎重に:Webサイト・SNS・オンラインショップの展開は、老舗のブランドイメージと一致する形でゆっくり進める。「京都の老舗らしさ」を損なうSNS展開は逆効果になることもある。
技術継承の記録化を並行して進める:職人の技術を動画・テキスト・写真で記録することは、DXの一環として位置付けられる。これが10年後の事業継続につながる。
補助金の活用
IT導入補助金:在庫管理・受発注・CRM等のシステムに活用できる。
事業承継・引継ぎ補助金:4代目・5代目への事業承継を伴う投資として申請できるケースがある。DXコストも対象になる場合がある。
まとめ
- 老舗企業のDXは「変えるもの・変えてはいけないもの」の区別から始まる
- バックオフィスのデジタル化・技術継承の記録化・インバウンド対応が重点領域
- 「ブランドや技術には触れない」という方針をスタッフに伝えることが導入成功のカギ
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。全国700回を超える講演、著書7冊。
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。東京都INCU Tokyoメンター。熊本市スタートアップメンター。
