食品製造業のDX|ロット管理・品質記録・HACCP対応の進め方 – AKINAI-X Lab
食品製造業の現場で最も多く見るのは、「紙とExcelで何とか回している」という状態だ。ロット番号を手書きで記録し、品質チェックはバインダーに挟んだ用紙、HACCPの記録はまた別の紙——これが現実だ。

問題は、それで「回っている」ことだ。回っているから変えない。変えないから、いざ問題が起きたときに追跡できない。大手スーパーから「ロット番号で該当商品を全量回収してほしい」と言われたとき、紙とExcelで対応できるか。
食品製造業のDXは、コスト削減だけが目的ではない。取引先・消費者への責任を果たせる体制を作ることが本質だ。
食品製造業が抱える3つのデジタル化急所

食品製造業が特に「デジタル化が遅れると致命的になる」領域は3つある。
1. ロット管理のトレーサビリティ
原材料の仕入れロット番号と、それを使って製造した製品のロット番号を紐付けて追跡できる状態を「トレーサビリティ」という。大手小売・食品メーカーとの取引では、これが求められるケースが増えている。
紙とExcelで管理している場合、「このロットの原材料がどの製品に使われたか」を追跡するのに数時間かかることがある。デジタル化すれば数分で完了する。
2. 品質記録の完全性
温度記録・配合記録・異物検査結果——これらの記録が「後から書いたかもしれない」状態では、食品衛生法上のリスクになる。タイムスタンプ付きのデジタル記録は、記録の改ざんが困難なため証拠能力が高い。
3. HACCP義務化への対応
厚生労働省は、2021年6月1日から原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理への取り組みを求めている。一部対象外の事業者もあるため、自社の営業形態に応じて最新の公的情報を確認する必要がある。記録の保存方法や提出要件も、対象書類と所管自治体の案内を確認する。
デジタル化で得られること
- トレーサビリティ速度:原材料から製品までの追跡手順を整理しやすくする
- 監査対応力:行政・バイヤー監査で必要な記録を即座に提出できる
- 品質事故のリスク低減:温度・時間の逸脱をリアルタイムでアラート検知できる
注意点
- 紙との並行運用期間が必要:デジタル化移行中は二重入力が発生する。期間を決めて移行すること
- 現場の抵抗:「今まで通りでいい」という声は必ず出る。小さな成功体験を積み重ねる順序で進める
中小食品メーカーのデジタル化。現実的な3ステップ

顧客事例を掲載する場合は、対象工場、実施内容、測定期間、結果の定義、掲載許諾を確認したうえで紹介する。
ステップ1:HACCP記録から始める(コスト:月数千円〜)
最初に着手すべきはHACCP記録のデジタル化だ。専用アプリ(FoodLogや温度管理IoTセンサーなど)を使えば、記録の自動化・タイムスタンプ付与・クラウド保管が実現できる。初期費用も安く、現場への負担が少ない。
ステップ2:ロット管理を電子化する
QRコードやバーコードを使ったロット管理システムを導入する。スキャンするだけで「いつ・どの原材料を・どの製品に使ったか」が記録される。kintoneなどのノーコードツールで自社仕様のロット管理アプリを作る事例も増えている。
ステップ3:在庫・発注管理と連動させる
ロット管理と在庫管理が連動すると、先入れ先出し(FIFO)の自動化や原材料の在庫切れアラートが実現できる。ここまで来ると、製造現場の情報が経営判断につながる。
補助制度を確認する際のポイント
補助制度を利用する場合は、申請時点の公式公募要領で対象経費、補助率、上限額、申請時期、交付決定前の発注可否を確認する必要がある。制度名や要件は年度によって変わるため、過去の情報だけで判断してはならない。
よくある質問
Q. HACCP記録のデジタル化は、法律上問題ないか?
記録の電子化を検討する場合は、対象となる記録、保存方法、改ざん防止、アクセス管理、取引先や所管自治体の提出要件を確認する必要がある。
Q. 従業員がスマートフォンやタブレットを使えない場合はどうするか?
操作が簡単なタッチパネル式の専用端末や、バーコードスキャナーを使う方法もある。ステップを踏んで習熟させることが重要で、最初から全機能を使わせる必要はない。
Q. 小規模(従業員10名未満)でもシステム導入は現実的か?
十分に現実的だ。導入費用や運用負担はサービスと対象範囲によって異なるため、複数の候補を比較する。小規模だからこそ、意思決定が早く変化を取り込みやすい。
まとめ
- 食品製造業のDXは「コスト削減」より「責任を果たせる体制づくり」が本質
- ロット管理・品質記録・HACCPの3領域がデジタル化の急所
- 小さく始めて、成功体験を積み重ねながら広げる
- IT導入補助金・省力化投資補助金を活用することで自己負担を減らせる
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。
2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。
その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。
「AI/DX」「起業」「新規事業」「M&A」領域で国、自治体、金融機関、上場企業からの信頼も厚く、全国700回を超える講演、著書7冊。
地域が主役の日本新時代をDX×チャレンジで創るべく、起業家、経営者の成長支援と、金融機関、新聞社、自治体向けのDX支援を展開。第一生命、広島銀行、島根銀行、熊日新聞、愛媛新聞、新日本海新聞、北日本新聞、熊本市、人吉市、美里町、山形県寒河江市、奈良県田原本町、愛媛県松前町、西条市などをご支援中。
肩書など
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。
元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。
東京都INCU Tokyoメンター
熊本市スタートアップメンター
