AI・コンサル

長野・山梨の農業・食品製造業DX事例と補助金活用

📅 2026年07月25日
アキナイクロス

長野はりんご・レタス・ぶどう、山梨はぶどう・もも・ワインと、どちらも全国有数の農業県だ。同時に、その農産物を加工するワイナリーや食品製造業も多く集積している。だが現場に入ると、生産管理は紙とノート、出荷はFAX、販路は市場出荷のみという法人がまだ多い。2,000社を超える支援の中で、私はこの地域の農業・食品製造業がDXでどう変わったかを何度も見てきた。今回はその実例を具体的に書く。

長野・山梨の農業・食品製造業DX事例と補助金活用


長野・山梨の農業・食品製造業が抱える共通課題

この記事で答える問い:長野・山梨の農業・食品製造業がDXに取り組む際、最初に何を解決すべきかを、実例をもとに整理する。

長野はりんご・レタス・はくさい・ぶどうの生産量が全国トップクラス。山梨はぶどう・ももの生産量が日本一で、ワイナリーの数も全国最多だ。どちらも地域の主力産業だが、経営課題は共通している。

生産管理が属人化している。圃場ごとの収穫量・品質・出荷先の記録がベテラン農家の頭の中にしかない。後継者に引き継げない。

品質管理が「勘」に頼っている。糖度・熟度の判定を目視と経験でやっている。個体差が大きく、クレームが出ても原因がわからない。

販路が市場出荷に偏っている。JAや市場への出荷が中心で、直販・EC比率が低い。単価の主導権を自分たちで持てない。

この3つを同時に解決する必要はない。まず「どこにボトルネックがあるか」を特定してから、生産管理・品質管理・EC直販のどこから手をつけるかを決めるのが正しい順番だ。

DXで解決できること

  • 生産記録の一元化:圃場別の収穫・出荷データをクラウドで共有し、属人化を防ぐ
  • 品質の数値化:糖度計・非破壊センサーでデータを蓄積し、判定基準を統一する
  • EC直販の強化:市場出荷に頼らない直接販路を作り、単価と利益率を上げる

導入時の留意点

  • 投資規模の見極め:センサーやECシステムは数十万〜数百万円かかる。補助金の活用を前提に計画する
  • 運用する人の育成:システムを入れても入力・更新する人がいなければ形骸化する

長野のりんご・レタス農家がクラウド生産管理で変わった実例

長野県内でりんごとレタスを手がける農業法人(従業員8名)の話だ。

この法人は圃場が県内に分散しており、収穫量・出荷先・単価の記録がスタッフごとの手書きノートに分かれていた。年末の確定申告時期になると、集計だけで1週間かかっていた。

導入したのはクラウド型の生産管理システムだ。スマートフォンから圃場ごとの作業記録・収穫量・出荷先を入力し、経営者がリアルタイムで全体を把握できるようにした。

結果、集計作業が1週間から半日に短縮された。さらに「どの圃場のりんごが高単価で売れているか」がデータで見えるようになり、翌年の作付け計画に反映できるようになった。これは記録をデジタル化して初めて気づけたことだった。

【実録:長野りんご農業法人・生産管理DX導入事例】
従業員8名・りんごとレタスの複合経営。手書きノート管理からクラウド生産管理システムへ移行。年末の集計作業が1週間から半日に短縮。圃場別の収益データが可視化され、翌年は低収益圃場の作付けを見直し、りんご部門の売上が前年比12%増となった。

AKINAI-Xのサービスを見てみる


山梨のワイナリー・食品加工業が品質管理とEC直販で変わった実例

山梨県内のワイナリー(従業員15名、ぶどう栽培から醸造まで一貫生産)の話だ。

この法人が抱えていた問題は「糖度・酸度の判定が担当者の経験に依存していた」ことだった。ベテラン担当者が退職を控えており、若手への技術継承が課題になっていた。

導入したのは非破壊式の糖度センサーとクラウド品質管理システムだ。収穫前のぶどうの糖度・酸度を数値化して記録し、過去データと比較できるようにした。これにより、収穫のタイミング判断を若手スタッフでも一定の精度で行えるようになった。

同時に、市場出荷中心だった販路を見直し、自社ECサイトを立ち上げた。SNSで醸造工程や畑の様子を発信し、ワインのストーリーを伝える発信を続けた結果、直販比率が徐々に上がり、卸売より高い単価で販売できるようになった。

もう一社、山梨県内の果物加工業(もも・ぶどうのジャム・ジュース製造、従業員20名)では、6次産業化支援の補助金を使って加工設備とECサイト構築を同時に進めた実例もある。原料の余剰果実を加工品に転換し、廃棄ロスを減らしながら新たな収益源を作った。

山梨の食品製造業DX活用パターン

  • ワイナリー:非破壊糖度センサーによる収穫判断の数値化、醸造工程記録のクラウド管理
  • 果物加工業:6次産業化補助金を使った加工設備投資とEC直販の同時展開
  • 共通:SNSでの発信によるブランドストーリー構築と直販比率の向上

注意すべき点

  • ECは「作って終わり」にならない:サイトを立ち上げても更新・発信を続けなければ売上にはつながらない
  • 加工設備投資は需要予測とセット:設備だけ導入して販路が伴わないと在庫過多になる

活用できる補助金。6次産業化支援からデジタル化補助金まで

長野・山梨の農業・食品製造業が使える補助金は複数ある。2026年時点で主なものを整理する。

6次産業化支援(農山漁村振興交付金):農林水産物の生産・加工・販売を一体化する取り組みに使える。ワイナリーや果物加工業の加工設備・直販施設の整備が対象になりやすい。補助率は事業内容によって異なる。

産地生産基盤パワーアップ事業(農林水産省):農業機械・生産管理システムの導入に使える。長野・山梨の果樹農家でも活用実績がある。

デジタル化・AI導入補助金(2026年度):農業法人・食品製造業も中小企業として申請できる。クラウド生産管理システム・ECサイト構築・センサー機器の導入に使いやすい。

小規模事業者持続化補助金:ECサイト立ち上げ・SNSマーケティングなど小規模な販路開拓の投資に向く。上限額は事業者の状況によって異なる。

県単独の農業振興補助金:長野県・山梨県それぞれに独自の補助事業がある。県や市町村の農政課・産業振興課に直接確認するのが早い。

注意点は「補助金の締切から逆算して計画を立てる」ことだ。公募期間は年に数回、期間も短いことが多い。使いたい補助金が見つかってから準備を始めると間に合わないケースが多い。


DXで失敗する農業・食品製造業の共通点

2,000社を超える支援の中で、農業・食品製造業のDXが失敗するパターンははっきりしている。

「システムを入れて終わり」にしている。クラウド管理システムを契約したが誰も入力しない、ECサイトを作ったが更新が止まっている——これが最も多い失敗だ。技術は手段であって目的ではない。

経営者が現場に説明していない。導入の目的や使い方を現場のスタッフに十分説明せず、いつの間にか使われなくなるケースがある。現場が納得して使う理由を持てるかが定着の分かれ目だ。

EC直販を「片手間」でやろうとする。既存の市場出荷業務の合間にECを運営しようとして、発信も対応も中途半端になる。直販に本気で取り組むなら、担当者を決めて時間を確保する必要がある。

専門家の視点:農業・食品製造業DXで最初に変えるべきは何か

【視点:「記録の数値化」が全ての土台になる】
2,000社を超える支援の現場で、長野・山梨の農業・食品製造業に最初に勧めることは「センサーでもECでもなく、生産記録の数値化」だ。収穫量・品質・コストがデータになっていない状態では、加工設備を入れてもEC直販を始めても、何が効いているかがわからない。まず「今何が起きているか」を数字で把握する土台を作ることが先決だ。それができて初めて、次のステップとして品質管理システムやEC戦略が意味を持つ。

【実録:記録の数値化から始めた山梨の食品加工業】
まず原料の入荷量と加工歩留まりをスプレッドシートで記録することから始めた。3ヶ月後、「どの原料・どの時期の歩留まりが良いか」が初めて可視化された。この段階で加工設備更新の必要性が経営陣に腹落ちし、翌年の6次産業化補助金申請につながった。

AKINAI-Xのサービスを見てみる


まとめ

  • 長野・山梨の農業・食品製造業は「生産管理の属人化」「品質判断の勘への依存」「市場出荷偏重の販路」という共通課題を抱えている
  • クラウド生産管理・品質センサー・EC直販は課題解決の手段であり、まず何を解決したいかを明確にしてから技術を選ぶ
  • 補助金は6次産業化支援・産地生産基盤パワーアップ事業・デジタル化AI導入補助金・小規模事業者持続化補助金などを組み合わせて活用できる
  • 失敗の共通点は「システムを入れて終わり」「現場に説明していない」「EC直販を片手間でやる」の3パターン
  • 記録の数値化から始めることが農業・食品製造業DXの最短経路だ

AKINAI-Xのサービスを見てみる


著者プロフィール

伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO

23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。全国700回を超える講演、著書7冊。

1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。東京都INCU Tokyoメンター。熊本市スタートアップメンター。