介護事業所のDX。記録・シフト・請求を変えた地方施設の事例
「記録に追われて、利用者と向き合う時間が取れない」——介護職員が抱える本音だ。しかし、これは人員不足だけの問題ではない。記録業務の非効率が、実質的に介護の質を下げている。2,000社を超える支援の中で、私は介護事業所のDXが最も効果を実感しやすい領域の一つだと確信している。記録・シフト・請求の3つを変えるだけで、月40時間以上の業務時間を削減した施設もある。何から始めるかを迷っている管理職に、具体的な道筋を示す。

介護現場の「時間泥棒」は記録業務だ

介護職員が業務時間の何割を記録に費やしているか、正確に把握している施設長は少ない。実態調査では、現場スタッフの1日の業務時間のうち20〜30%が記録作業に費やされているという報告がある。8時間勤務なら、2〜2.5時間だ。
問題は記録の「方法」にある。多くの介護施設では、介護記録をBOX紙や専用用紙に手書きし、後でPCに入力する「二重作業」が常態化している。さらに、申し送りも紙とホワイトボードが主流だ。ヒヤリハット報告は別の書式、体重・バイタル測定は別のノート——情報が分散していて、必要な情報を探すだけでも時間がかかる。
この状態は「仕方ない」ではない。技術的には、すでに解決手段がある。問題は、解決手段を知らないか、導入の一歩が踏み出せていないかのどちらかだ。
解決の核心:クラウド介護記録ソフトの導入

記録問題の解決策は明確だ。タブレットで入力できるクラウド型介護記録ソフトを導入する。これだけで、手書き→PC転記の二重作業が消える。さらに、申し送り・ヒヤリハット・バイタルの一元管理もできるようになる。
主要なサービスとしては「カイポケ」「ケアコネクト」「eWELL」などがある。初期費用は施設規模によるが、月額数万円から始められる。機能差より重要なのは「スタッフが実際に使えるかどうか」だ。タブレット操作が苦手な高齢スタッフへの研修計画を含めて導入を設計することが、成功率を大きく左右する。
シフト管理は、「シフオプ」「らくしふ」などのクラウドシフト管理ツールが有効だ。希望休のLINE収集・自動シフト案の作成・勤務実績の連携まで対応できる。月額1〜3万円程度の投資で、シフト作成時間を月10時間以上削減できる施設も多い。
介護DXで使える主要ツール
- 介護記録ソフト:カイポケ・ケアコネクト・eWELL——タブレット入力・申し送り一元化・バイタル管理
- シフト管理:シフオプ・らくしふ——希望収集・自動シフト作成・勤怠連携
- 請求ソフト:カイポケ・ほのぼの・ワイズマン——国保連請求・利用者請求の自動化
導入前に確認すること
- スタッフの年齢層・ITリテラシー:操作研修の計画なしに導入すると定着しない
- 既存システムとの連携:請求ソフトとの連携可否を必ず事前確認すること
請求業務の複雑さを「ソフトに任せる」

介護事業所の管理業務で最も専門性が高く、かつ手間がかかるのが国保連への介護報酬請求だ。介護保険の算定は複雑で、加算の取り忘れや算定誤りが直接的な収益損失につながる。
しかし、請求ソフトを使えば、サービス実績の入力から請求書の作成・送信まで、大部分が自動化される。さらに、加算の取り忘れアラートや、法改正への自動対応(ソフト側のアップデートで対応)など、ヒューマンエラーを防ぐ仕組みも充実してきた。
重要な点は、介護記録ソフトと請求ソフトの連携だ。記録したサービス実績がそのまま請求データに反映される仕組みにすることで、転記ミスをゼロにできる。この連携を前提に、ソフト選びをすべきだ。
【比較】紙運用 vs クラウド介護記録
| 業務項目 | 紙運用 | クラウド記録ソフト |
|---|---|---|
| 介護記録入力 | 手書き→PC転記(二重) | タブレットで一回入力 |
| 申し送り | 口頭・ノート・ホワイトボード | システムで一元共有 |
| シフト作成 | 手作業で月10〜20時間 | 自動案生成で月3〜5時間 |
| 国保連請求 | 手入力・転記ミスリスク高 | 自動生成・加算漏れアラート |
熊本県・特養20名の事例:月40時間の記録業務が15時間に

熊本県の特別養護老人ホーム(定員40名・職員20名)では、記録業務の負担感が慢性化していた。夜勤明けの職人が朝方まで記録を書く状況が続き、離職率も高止まりしていた。
私たちが提案したのは、クラウド型介護記録ソフトの導入とタブレット12台の配備だ。スタッフ研修を2週間実施し、1ヶ月の並行運用期間を設けて完全移行した。また、シフト管理ソフトの導入で、月18時間かかっていたシフト作成が3時間に短縮された。
結果、月換算で記録業務全体が40時間から15時間に削減された。離職率は翌年で約30%改善し、現場スタッフから「利用者と話す時間が増えた」という声が出るようになった。投資額は初期費用込みで約80万円。2年以内に費用対効果がプラスに転じると試算した。
「記録に追われていた時は、入居者の顔を見る余裕もなかった。今は仕事が楽しくなったと若いスタッフが言ってくれた。これが一番の成果だと思っている。」
— 特別養護老人ホーム・20名・熊本県
まとめ:介護DXの第一歩は「記録の二重作業をなくすこと」だ
介護事業所のDXは、高度なAI活用や大規模システム投資から始まる必要はない。まず「記録の二重作業」をなくすことだ。そのための手段は、すでに整っている。コストも月数万円から始められる。
人手不足が深刻な介護業界で、現場スタッフの業務負担を下げることは、採用力・定着率にも直結する。DXは「経営者のための効率化」ではない。スタッフが利用者と向き合える時間を増やすための、現場への投資だ。
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。
2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。
その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。
「AI/DX」「起業」「新規事業」「M&A」領域で国、自治体、金融機関、上場企業からの信頼も厚く、全国700回を超える講演、著書7冊。
地域が主役の日本新時代をDX×チャレンジで創るべく、起業家、経営者の成長支援と、金融機関、新聞社、自治体向けのDX支援を展開。第一生命、広島銀行、島根銀行、熊日新聞、愛媛新聞、新日本海新聞、北日本新聞、熊本市、人吉市、美里町、山形県寒河江市、奈良県田原本町、愛媛県松前町、西条市などをご支援中。
肩書など
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。
元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。
東京都INCU Tokyoメンター
熊本市スタートアップメンター