鳥取・島根の製造業がDXで受注リードタイム40%を短縮した。従業員30名規模の実装事例
「地方だからDXは難しい」と言う経営者に、私は必ず聞き返す。「何が難しいのですか?」と。

人手不足・IT人材不足・補助金情報の少なさ。確かにハードルはある。しかし山陰地域(鳥取・島根)の製造業でも、DXで明確な数字を出している会社が実在する。
この記事では、鳥取・島根の製造業DX事例として、従業員30名前後の製造業2社が受注リードタイムを40%短縮するまでに何をしたかを具体的に記録する。地方製造業に特有の条件と、それを乗り越えた方法も含めて解説する。
鳥取・島根の製造業DXを阻む「3つの固有課題」
全国の中小製造業と共通する課題に加えて、山陰地域には固有の問題がある。
課題1:IT人材の採用が困難
都市部に比べてITエンジニアの採用市場が小さい。そのため、「DXを進めたくても、社内に詳しい人間がいない」という声は、山陰地域の経営者から特に多く聞く。
課題2:補助金情報が届きにくい
IT導入補助金・ものづくり補助金は全国一律だが、申請サポートをしてくれる支援機関や商工会の情報密度が都市部と差がある。つまり、「補助金があることは知っているが、使い方がわからない」という状態が続きやすい。
課題3:取引先のDX水準に引きずられる
取引先が紙・FAX・電話で動いている場合、自社だけデジタル化しても接点の部分で非効率が残る。そのため、「取引先の都合に合わせざるを得ない」という制約がある。
これらは確かに難しい。しかし、解決できない問題ではない。
【鳥取県の実情:製造業DXを後押しする地域条件】
鳥取県・島根県では、国の補助金に加えて県独自の中小企業デジタル化支援制度が複数存在する。また、人口規模が小さいことで「支援機関と経営者の距離が近い」という逆説的なメリットもある。情報が届くかどうかは、地域の支援ネットワークにアクセスできているかどうかで大きく変わる。
2社の事例:何をどう変えたのか

事例1:鳥取県の金属加工業(従業員28名)
この会社の最大の問題は「受注から納期回答まで3営業日かかる」という状況だった。見積依頼が来ると、担当者が手書きの工程表を確認しながら空き工程を確認し、口頭で確認を取り合い、Excelで見積を作り、メールで返信する。この一連の作業に平均3日かかっていた。
変えたのは3点だ。
- 工程の空き状況をGoogleスプレッドシートで共有(リアルタイム更新)
- 見積の標準単価テーブルをクラウドに集約
- 受注記録をクラウドで一元管理
費用は月3〜5万円程度のクラウドツール代のみ。さらに、IT導入補助金を活用して初期費用を実質ゼロにした。
導入3ヶ月後、受注から納期回答まで「当日〜翌日」に短縮した。リードタイム短縮率は約65%。その結果、顧客からの「レスが速い」という評価が増え、繰り返し発注の割合が増加した。
事例2:島根県の樹脂成形業(従業員33名)
こちらの課題は「在庫の把握に半日かかる」という問題だった。材料在庫・仕掛品・完成品のすべてが担当者の頭と紙に記録されており、急な受注対応時に「今どれだけ作れるか」がすぐにわからなかった。
変えたのは2点だ。
- 材料・仕掛品・完成品の在庫をバーコード管理システムに移行
- 生産指示書をデジタル化(タブレットで現場確認)
導入から6ヶ月後、受注から出荷まで平均リードタイムが約40%短縮された。具体的には、在庫確認の「待ち時間」がなくなったことと、生産指示の伝達ミスが激減したことが主因だった。
2社に共通した成功要因
- 課題を1つに絞った:「全部変える」ではなく「受注リードタイムだけを短縮する」という明確な目標を設定した
- 既存ツールを最大限活用した:高価な専用システムではなく、GoogleやExcelの延長線上のツールから始めた
- 補助金を活用した:IT導入補助金で初期費用を実質ゼロにし、リスクを最小化した
- 現場リーダーを巻き込んだ:導入前に現場の主任クラスへのヒアリングを行い、「現場が選んだ」という感覚を作った
共通した失敗リスクと回避方法
- 取引先の紙・FAX問題:まず「社内の非効率」から始めた。取引先との接点は後回しにした
- IT人材不足:社内に詳しい人がいなくても使えるSaaSツールを選んだ。ベンダー依存を避けた
「なぜうまくいったのか」の本質
2社の事例を見ると、共通点が見えてくる。
どちらも「大きなシステムを一気に入れた」わけではない。「一番困っていることを1つ特定し、最小の変化で解決した」のだ。
一方、地方製造業のDXは、都市部と本質的に変わらない。課題の特定→最小コストでの検証→成功体験→次のステップ、というサイクルを回すことが中心だ。
ただし、地方固有の補助金情報を活用できるかどうか、という点だけが都市部との主な差異だ。
よくある質問
地方製造業向けに特化した補助金はあるか
国のIT導入補助金・ものづくり補助金は全国共通だが、鳥取県・島根県には独自の中小企業支援補助金が複数ある。県の商工労働部や中小企業振興センターのウェブサイト、または最寄りの商工会・商工会議所に確認するのが確実だ。補助金情報は毎年変わるため、最新情報は必ず公式窓口で確認すること。
取引先がFAX・紙運用の場合、DXは進められるか
進められる。まず「社内の非効率」から始めればよい。取引先との接点部分(受発注・納品書など)は後から変えるか、変えないままでも社内は効率化できる。「取引先が変わらないから無意味」は誤りだ。
どのくらいの期間で効果が出るか
2社とも、最初の変化は1〜2ヶ月以内に現れた。「担当者が楽になった」という感覚から始まり、さらに3〜6ヶ月で数字に表れる。1年経っても変化がない場合は、変えた場所が間違っている可能性がある。
まとめ:地方という条件は、DXの障壁にはならない
鳥取・島根という地方製造業でも、DXで明確な数字を出すことは可能だ。
- 山陰地域固有の課題(IT人材・補助金情報・取引先制約)はあるが克服できる
- 受注リードタイム短縮は「工程の可視化」「在庫管理のデジタル化」から始められる
- 高価なシステムは不要。月3〜5万円のクラウドツールから十分な効果が出る
- 地域の補助金を活用すれば初期投資を大幅に下げられる
地方だからできない、ではない。地方だからこそ、変化の効果が早く広がる。
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。
2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。
その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。
「AI/DX」「起業」「新規事業」「M&A」領域で国、自治体、金融機関、上場企業からの信頼も厚く、全国700回を超える講演、著書7冊。
地域が主役の日本新時代をDX×チャレンジで創るべく、起業家、経営者の成長支援と、金融機関、新聞社、自治体向けのDX支援を展開。第一生命、広島銀行、島根銀行、熊日新聞、愛媛新聞、新日本海新聞、北日本新聞、熊本市、人吉市、美里町、山形県寒河江市、奈良県田原本町、愛媛県松前町、西条市などをご支援中。
肩書など
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。
元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。
東京都INCU Tokyoメンター
熊本市スタートアップメンター
