SalesforceとHubSpotは中小企業に向かない。本当に使えるCRM選びの基準
「CRMを入れよう」と思ったとき、なぜSalesforceが真っ先に出てくるのか。営業担当者に勧められたからか。あるいは「有名だから安心」という理由か。

私は2,000社を超える支援の中で、中小企業がSalesforceやHubSpotを導入し、1年も経たずに使われなくなる現場を何度も見てきた。具体的には、原因はほぼ共通している。「機能が多すぎて誰も使いこなせない」「費用対効果が合わない」「担当者が辞めたら終わった」だ。
つまり、CRMは入れることが目的ではない。顧客を管理することが目的だ。この前提に立ち返れば、自社に本当に合うCRMが見えてくる。
SalesforceとHubSpotが中小企業に向かない理由

SalesforceもHubSpotも、本来は成長期のスタートアップや中堅以上の企業向けに設計されたツールだ。そのため、機能の豊富さがセールスポイントである以上、中小企業には「使わない機能への支払い」が避けられない。
コストの問題から見る。Salesforce(Sales Cloud)の最低プランは1ユーザーあたり月額3,000円前後だが、実務で使えるプランは倍以上になる。具体的には、5名で使えば月に3〜5万円、年間で36〜60万円が消える。また、HubSpotも無料プランは機能が限定的で、実用的なレベルには月5〜10万円程度の投資が必要になる。
導入・運用コストの問題も深刻だ。Salesforceは初期設定に専門知識が必要で、SIer(システムインテグレーター)への委託費が別途100万円単位で発生することも珍しくない。さらに、運用を回すには「Salesforce管理者」と呼ばれる専任担当者が必要になる場合すらある。しかし、従業員数が30名以下の会社にそのリソースはない。
機能過多の問題は現場に直撃する。画面に並ぶ無数の設定項目、複雑なオブジェクト構造、営業が「入力するだけで精一杯」になるUI。一方、結果として、入力率が下がり、データが貯まらず、CRMとしての価値が失われる。
Salesforce / HubSpotが強みを発揮するケース
- 大規模営業組織:数十名以上の営業チームで高度な権限管理・レポートが必要な場合
- マーケティング連携:メール自動化・リードスコアリングを本格運用したい場合
- 既存ERPとの統合:基幹システムとのAPI連携が前提の場合
中小企業(〜30名規模)での典型的な失敗パターン
- 初期設定で挫折:SIerに頼むと費用が跳ね上がり、自社でやると半年かかる
- 入力負荷が高すぎる:現場が「入力する時間があったら営業する」と離反する
- 担当者依存:唯一の「わかる人」が退職した時点でブラックボックス化する
- 費用回収できない:月10万円払っても、管理できているのはExcelで十分だった情報
中小企業に向くCRMの5つの条件

では何を基準に選べばいいのか。私が現場で確認してきた「使われ続けるCRM」には共通した条件がある。
①当日中に使い始められること。設定に1週間かかるツールは中小企業には向かない。具体的には、初期設定が1〜2時間で終わり、翌日から入力できる設計であることが最低条件だ。
②現場が入力を嫌がらないこと。UIが直感的で、スマートフォンからも入力できること。また、入力項目が少なく、必要最低限に絞られていること。これができていないCRMは、導入してもデータが貯まらない。
③月5万円以下で全機能が使えること。従業員10名以下であれば月3万円以内が目安だ。さらに、オプション課金が積み重なる構造のツールは避ける。
④日本語サポートがあること。トラブル時に英語でやり取りする余裕は中小企業にはない。そのため、チャット・電話・メールで日本語対応しているかを必ず確認する。
⑤Excelからの移行が簡単なこと。多くの中小企業はまずExcelで顧客管理をしている。つまり、CSVインポートが簡単に使えることは、移行コストを大きく左右する。
【比較】Salesforce/HubSpot vs 中小企業向けCRM
| 比較項目 | Salesforce / HubSpot | 中小企業向けCRM(Zoho・kintone等) |
|---|---|---|
| 月額費用(5名) | 2〜10万円以上 | 5,000円〜3万円程度 |
| 初期設定の難易度 | 高(専門知識要) | 低〜中(当日〜数日で開始可) |
| 機能の豊富さ | 非常に多い(使いこなせないことが多い) | 必要十分(中小企業の用途に絞られている) |
| 日本語サポート | あり(ただし有料プランが前提) | あり(Zoho・kintoneは国内サポート充実) |
| スマホ対応 | あり(設定が必要なことも) | あり(多くが標準対応) |
| カスタマイズ性 | 非常に高い(技術者が必要) | kintoneは高い。Zoho・Pipedriveは中程度 |
結論:規模・予算・目的別の推奨
ここまで読んだ上で、私が現場で実際に勧めているCRMを規模・予算・目的別に示す。「場合によります」では何も決まらないので、明確に答える。
従業員10名以下・月予算1万円以内・IT習熟度が低い場合は「Zoho CRM 無料プラン」か「HubSpot 無料プラン」から始めるのが正解だ。どちらも無料で基本機能が使え、UIも比較的わかりやすい。そのため、まずCRMを「使い始める体験」を積むことが最優先だ。
従業員10〜50名・月予算3〜5万円・IT習熟度が中程度の場合は「Zoho CRM 有料プラン」か「Pipedrive」を勧める。具体的には、Zoho CRMは機能が豊富でコスパが高く、国内サポートも充実している。一方、Pipedriveはパイプライン管理(商談の進捗を可視化する機能)が特に優れており、営業プロセスが明確な会社に向く。
業種・業務に合わせて画面を自由に作りたい場合は「kintone」が適している。kintoneはノーコード(プログラムを書かずにシステムを構築できる手法)でカスタマイズできる国産ツールで、製造業・士業・建設業など、独自の顧客管理フローを持つ会社に強い。しかし、月額費用はユーザー数に応じて増えるため、小規模での利用なら月2〜3万円は見込む必要がある。
【実録:従業員8名の製造業・kintone導入事例】
もともとExcel3ファイルで顧客・見積・受注を管理していた。担当者が辞めるたびにファイル構造が崩れ、引き継ぎに毎回3週間かかっていた。kintoneをノーコードで構築したところ、初期設定2週間・費用月1.8万円。導入後は引き継ぎ工数がゼロになり、受注ミスも半減した。「Salesforceを検討していたが、見積もりが年間80万円と出て断った」と担当者は話していた。
よくある質問
CRMとSFA(営業支援システム)は何が違うのか?
CRMは「顧客関係管理」全般を指し、受注後のフォローや顧客履歴の蓄積を中心とする。SFAは「商談管理・受注前の営業活動」に特化したツールだ。SalesforceはSFA寄り、HubSpotはマーケティング連携が強い。中小企業の多くはCRM機能だけで十分であり、SFAの高度な機能は不要なことが多い。
無料CRMと有料CRMの決定的な違いは何か?
主な違いは「ユーザー数の上限」「保存できるデータ量」「自動化機能の有無」だ。会社の規模が小さいうちは無料で十分なことが多い。ただし無料プランはサポートが限定されるため、「困ったときに聞ける環境」を重視するなら有料プランを選ぶほうが長続きする。
CRMを入れたのに使われなくなった。どうすれば良いか?
まず「なぜ使われなくなったか」を正直に把握することだ。入力が面倒・何のために使うかわからない・誰も見ていない、この3つが主な理由だ。ツールを変える前に、目的と運用ルールを明文化し、「CRMに入力しないと困る仕組み」を作る。それでも改善しない場合は、より入力負荷の低いツールへの乗り換えを検討する。
まとめ
- SalesforceとHubSpotは機能・コスト・導入難易度のいずれにおいても中小企業(〜30名規模)には過剰だ
- 中小企業に向くCRMの条件は「当日起動・入力が簡単・月5万円以下・日本語サポート・Excel移行が容易」の5つ
- 10名以下ならZoho CRM無料プランまたはHubSpot無料プランから始める
- 10〜50名・営業プロセスが明確な会社にはZoho CRM有料プランまたはPipedriveが向く
- 独自の業務フローがある場合はkintoneのノーコードカスタマイズが有効
- CRMは「入れること」が目的ではない。顧客データが貯まり、営業行動が変わって初めて意味を持つ
著者プロフィール
伊藤健太|株式会社ウェイビー 代表取締役CEO
23歳、病気をきっかけに、小学校友人4名、資本金5万円で起業。
2011年から起業支援の行政書士として国内有数の年1,000社超の起業に携わる。
その後、売上アップ、仕組み化、新規事業、事業承継、AI、DX化など1万社超の起業家、経営者の成長支援をサポート。
「AI/DX」「起業」「新規事業」「M&A」領域で国、自治体、金融機関、上場企業からの信頼も厚く、全国700回を超える講演、著書7冊。
地域が主役の日本新時代をDX×チャレンジで創るべく、起業家、経営者の成長支援と、金融機関、新聞社、自治体向けのDX支援を展開。第一生命、広島銀行、島根銀行、熊日新聞、愛媛新聞、新日本海新聞、北日本新聞、熊本市、人吉市、美里町、山形県寒河江市、奈良県田原本町、愛媛県松前町、西条市などをご支援中。
肩書など
1986年横浜市生まれ、熊本市在住。慶應義塾大学法学部卒業。
元徳島大学客員教授。ダボス会議 U33メンバー。
東京都INCU Tokyoメンター
熊本市スタートアップメンター
